『穂花、ほら、上を見上げてごらん。』


『お父さんは、穂花が一番大好きだよ。』


『これは桜って言うんだよ。』


消し去った昔の記憶がどんどんと巻き戻される。


『お父さん!穂花も、桜大好きだよ!』

『本当か?お父さんは桜が好きな子が大好きだよ。』


桃色の花々で世界がぐるぐると回り出す。

あの甘い香りが漂ってくるようで、胃が悲鳴をあげる。


『桜をお父さんだと思ってごらん。穂花はお父さんが大好きだろう?』


あの優しい微笑みが桜と混ざってぼやけはじめる。


待って!行かないで…っ!

置いて行かないでよっ…!!!!


「…っ…お父さんっ…」


灯火のような笑顔が桜に飲み込まれて消えた時に、わたしは桜の根元に崩れ落ちた。