びゅうっと風が吹いた。


これで、彼もまた消えてしまうんではないか…空想の人なのではないか、と思った。


だけど、風がおさまっても彼はそこにいた。


ニコって笑ってわたしに手を差し伸べている。


「ん!」


彼はぐいっと手を近づけてくる。


キラキラと光るその瞳が、期待を胸にわたしをじいっと見つめている。


わたしが目をそらしても、ちらっと見上げれば、彼はまだわたしから視線をそらさない。


ピクリとも動かずわたしの答えを待つ彼は、やっぱり本当に変わり者だ。


彼からの期待いっぱいの視線と溢れ出てくる元気がなんだかぎこちなくて、わたしは条件反応で彼の手を握った。


ぱあっと明るくなる彼の表情はまるで子供みたいで、思わず少しだけ気が緩んだ。


彼は力強くわたしの手を握り返してくる。


まるで、もう二度と離さない!っていう感じは、おもちゃを手にした幼稚園生と同じだ。



ーその手はなんだかすごく温かかった。