それはさかのぼるほど三十分前…

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教室にドアを開けたとたん、近くの机でたむろしていた昨日の女子三人組にクスッと笑われたわたし。

嫌な予感がして顔を歪める。

早朝ということもあって、まだあまり生徒は来ていない。

ぎくっとして過ぎ去ろうとすれば、


「昨日は掃除ありがとね!助かったあ!」


なんて声を上げる彼女ら。

なんて返せばいいのかわからなくて…


「そーそー!戻った時には終わってたしー、綾瀬さん最高〜!」


でも。


このままじゃないけないって思ったんだ。




悠の昨日の弾ける笑顔に勇気付けられたんだ。


このまま黙っていても、何も始まらない。


少しずつでいい。







ー自分を変えていきたい。







「…えっと、」


「なにー?」


首をこてんとかしげる彼女は不覚にもどきっとするくらい可愛くて。悠に告白をした彼女に、少しだけ変な感情が湧いてくる。



「これから…は、掃除、してくれるかな…?」


「…え?」


「昨日……ちょっと、大変……で、」



怖くて体が震える。



「…でもあれは仕方ないしー。」

「てか田中もいなかったしねえ?」


そう話を振られた男子生徒が怒ったように視線をそむける。


「それに掃除好きだって言ってたじゃん。」

「好きなことしてるんだから…ね、」


わたしはもうどうしたらいいのかわからなくて、顔を俯ける。


そんな時に、


「マジで田中もお前らもさ、」

「はあ?なにそれ?!」


いつの間にか教室に来ていた悠の声を遮って、ローファーが床にガツガツと当たる音と共に、大好きな彼女の荒々しい声が耳に届いた。


「あんたたちなんなわけ?サボっといて意味わかなんない。昨日穂花一人で掃除させたの?はあ!?田中はなに?勉強?中間試験なんて穂花もそうじゃん!それに矢沢たちもどうなの?穂花優しいから一生懸命掃除したんじゃないの?あんたたちの嘘を知ってながらも気づかないふりをしてあげてさ…っ、!こいつバカだから!バカみたいに優しいから!!!!」


マシンガンみたいに喋る彼女に、思わず泣きそうになってぐっと下唇を噛みしめる。

千秋ちゃんっ……


「穂花のっ優しさ、踏みにじってそんなに楽しい?」


千秋ちゃんのその言葉に、思わず顔を歪める彼女ら。


「千秋ちゃん、」


「マジであんたらかわいそうだわ。」


「千秋ちゃん、もう、いいよ。」


ぐいっと腕を引けば、やっと正気に戻ったみたいにわたしへ視線を向ける彼女。

いつの間にか教室には人だかりができていて、みんながわたしたちに注目していた。