君と僕の遥かな想い

「冬央ー聞いてよ」


「………」


朝、教室に入ると、クラスメイトの女子が冬央ちゃんに抱きついていた。



「おはよう、何してるの?」


「あ、ことはちゃん、おはようー」


「おはようー」


冬央ちゃんに抱きついているこの女の子は、隣のクラス嵐伊矢 蜜鈴《あらいや みすず》ちゃん。


高校で知り合った女の子で、最初冬央ちゃんと仲良くなったきっかけで私とも仲良くなった。


知らない人と仲良くなるのは昔より遥かに苦手だけど、友達と仲のいい人と親しくなれる自信はある。


精神が病む以前、元々は明るくて元気で誰とでも気さくに話せる性格だから、それは多少なりとも変わっていない。



「ねえ、聞いてよー」


蜜鈴ちゃんはどうやら不満が溜まっているようだ。


「どうしたの?」


「あのねーうちのお姉ちゃんが酷いんだよ!」


「酷い?」


「実はねー」


そして、蜜鈴ちゃんのお姉さんへの愚痴が広げられた。



「ねえー酷くない?」


蜜鈴ちゃんには私と同じようにお姉さんがいて、しかもくるなちゃんと友達だったらしい。


蜜鈴ちゃんが不満なのは、楽しみにしていたデザートを勝手に食べたやせっかく貯めて買ったほしかった服を盗られたやお姉さんの方が少しだけ頭がいいからっていつも蜜鈴ちゃんにボロクソに言ってくる、という内容だった。


正直、子供じみた内容だったけど、ある意味蜜鈴ちゃんが可愛そうな気もする。


蜜鈴ちゃんのお姉さんは結構、いじわるな性格でほしいものは自分のものにしたがる性質らしい。


蜜鈴ちゃんを下僕と思っているのか、嫌がらせをして楽しんでいる、と蜜鈴ちゃんは愚痴をいつも言ってきている。



「まあまあ、蜜鈴ちゃん。お菓子いる?」


「いるー!」


蜜鈴ちゃんを慰めてあげようと、鞄の中からお菓子を1つ差し出すと、蜜鈴ちゃんは飛びつくようにお菓子を手にした。


そして、蜜鈴ちゃんがお菓子を受け取った後、チャイムがなり、蜜鈴ちゃんは陽気な足取りで自分の教室へと帰って行った。



「…ふう」


「どうかしたの?」


蜜鈴ちゃんが帰っていった後、冬央ちゃんが呆れた様子で溜息を付いていた。


「別に…いつもいつも同じ事ばかりね」


「あ、それもそうだね」


蜜鈴ちゃんが愚痴っているのはいつもの事だ。


そしていつも比較するのがくるなちゃんだ。



「いいよね、本当に」


「へっ?」


昼休み、蜜鈴ちゃんの朝の会話は続いていた。


「くるなさんって絶対優しいよね」


「あーまあ…うん」


それは否定できないけど。


「うわ、即答だよ…」


確かにくるなちゃんは優しいし怒る事もない。


誰に対しても優しくてみんなから憧れておとしやかなそんな人だ。


私とは正反対で、私はくるなちゃんみたいに頑張っても絶対になれない。


それは、最初から決まってるから。


「ことはちゃん羨ましいなー自慢だよね」


「そうだね…」



いつからだろう。


いつからくるなちゃんに対して劣等感を持つようになったのは、いつからなんだろう?


分かってるはずなのに。


私とくるなちゃんは全然違う事に。


別に見た目とか男の子にモテるとかそういう事じゃなくて、もっとこう最初から持ち合わせている性質や気質、そういった細かい部分に劣等感を感じているのかもしれない。


私は弱いから強くないから。