「矢吹…」


「ん?」


玄関口に向かっていると、1人の地味めの女の子が近付いてくる。


「矢吹…」


「あ、夏成〈かな〉。
ああ、そっか、お前もこの学校だったんだ」


「うん」


2つ結びにメガネを掛けたこの女の子は、柊 夏成〈ひいらぎ かな〉、俺とは幼なじみである。


ぱっとしない見た目だから、俺と幼なじの関係性に絶対という確率で驚かれる。


「………」


ただ、夏成は俺以外の人間とは仲良くしたがらなくて、だいたいいつも1人で友達もいない。



「柊とまだ幼なじみやってんだ」


「ああ、なんかね」


「柊さんと幼なじみだったんだ!
初めて知った、すごいびっくりだよ」


「だよな」


妥当な意見なのはごもっともだ。


夏成は友達居なくて、俺以外興味ないらしい。


人に興味が持てない俺から言わしておけばあれだけど、夏成はもう少し他人と関わった方がいいかと思う。


あとあとで後悔するのは夏成なのだから。


俺は人に心を開かない変わりに、偽った自分の感情で接しているから、特に何とも思わないけど。



「…矢吹、なんで待っててくれなかったの? 朝」



「はっ? 約束とかしてないだろ?」



「でも、矢吹は待っててくれると思ってた」


「なんで俺がお前を待たないといけない訳?
恋人でもあるまいし」


「でも、連絡のひとつぐらい…。
私、メッセージ送ったのに無視したよね?」


「めんどい」


「矢吹…。いつからそんな冷たい人間になったの?
昔はもっと人間見溢れてたのに、高校に上がって更に冷たくなった。ねえ、矢吹…。いったい何があったの? 小学校の時も何も言ってくれない。どうして、矢吹は1人にならなきゃいけなかったの?」


「………」


夏成の追求が追うように迫り立てられ、その疑問に難しい表情になり今にも問われそうになる勢いだった。



ことはちゃんに話したけど、零宮は俺がどんな状況になっているか何一つ知らないから、出来れば知らないでいる方が楽だ。


「なあ、今の話ってどういう」


「ああ、そうだ商店街があるって聞いたけど、宇月さんどのあたりにあるのか教えてほしいんだけど、いい?」


「えっうん」


そう言って、夏成と零宮を残して宇月さんを連れて学校を出たのだった。


まるで逃げるかのように。