「ねえねえ、3組の転校生めっちゃ可愛くない?」


「あれで男子でしょ、うちら完全に負けてるよね」


案の定、俺の存在は噂になっていたようだった。


「良かったね、同じクラスで」


「そうだね」


宇月さんともどうやら同じクラスのようだった。



すると、ふいに1人の見知らぬ男子が俺の事を知ったような口調で話しかけてくる。


「矢吹って…あの矢吹?」


「ん?」


近付いてきた男子を見ると、どこか見覚えのある男子でもあった。


「えっと…」


「違う? もしかして覚えてない?」


「まさか…零宮?」


「ああ!」



ようやく思い出した。


彼は幼稚園の時、よく一緒に遊んでいた大塚 零宮〈おおづか れいく〉だった。


雰囲気がクールぽくなったから、全然分からなかった。


「いつ戻って来たんだよ!」


「8月に」


「ていうか、全然変わんないな。
相変わらずくそかわいいな!」


「それ、褒めてんの?」


クールなのは見た目だけど、中身はいっさい変わっていない気がした。


「ていうか、宇月と知り合いなんだ」


「ああ、ことはちゃんが」


言いかけた所で何気なく口が止まる。


零宮はことはちゃんの事知らないから言ってもわからないと思い口つぐむ。


「月野?」


「! えっことはちゃんの事知ってるの?」


「知ってるもなにも、小3まで同じ学校だったし」


そう言えば、低学年の頃までこの町に居たって言っていた。


なんで引っ越したかは聞いていないけど。



「引っ越しの時は本当突然だった気がしたな。なあ?」


「えっ」


宇月さんに急に振られ少し驚いた表情をしている。


むしろ振られたからの理由だけじゃないもするけど。


「そう、だね…」


宇月さんはバツが悪そうにそっぽを向きながら呟く。


「噂で聞いたんだけど、なんか事件があったとか聞いたけど、それと何か理由があるのだろうな?」


「!」


零宮の言葉に宇月さんがぴくっと反応して止めに入ろうとする。


「ちょっー」



《ガラ》



と、ちょうど担任の先生が教室に入ってきて、各々が自分の席へと戻っていく。


宇月さんを見ると少しほっとした安泰の表情を向けていた。


「………」


(やっぱり、人には言えない何かなんだ)