「はい!?」


恵さんは目をぱちぱちと瞬きを何度もしながらズルっと顔を傾けている。


「あのね、普通そこはOKでしょ? 流れ的には」


「まあ、あんな強く言われたら、怖じ気付いて思わずOKしちゃいますよね、普通は。でも、俺はしませんよ、そう簡単には。どうせダメになる未来しか見えて来ないんで」


「おお、さすが矢吹くん理解が早い!
その通りだよ」


かなるさんはぱちぱちと拍手しながら俺を褒めてくれる。


「かなる〜! 何がダメなの? 好きな人とかいるとか?」


恵さんは不満気に理由を問いてくる。


「別にいませんけど、ただ、好きでもない人と付き合いたくないです。それに、俺はそういうの興味ないんですよ。そもそも無闇に仲良くしたいっていう気持ちもないし」


家族としているだけで、本当の意味で特別仲良くしたいというのも全くない。


「矢吹くん…」


俺の言葉に灯良さんは何か言いたげそうなそんな表情を向けていた。


「じゃあ、ことはは? ことはとはよく話していたじゃない?」


「あの子は…」


興味がないか興味があるかと聞かれると、正直まだよく分からないでいる。


でも、あの子は心の奥底に大きなものを抱えているのに、なのに俺に歩み寄ろうとしていて、それが何より印象的で気になったんだと思う。


「ことはちゃんは面白くて変な子だよ、すごく…」


「へっ」


面白くておかしな変な子で、でもからかいがあって少し虐めたくもなる。


そんな風に思ったのは初めてだった。


正直言うと、あの時のキスは初めてだったんだけど、ことはちゃんも初めてだろうけどあの反応がすごくかわいいと思ってしまったのも事実だ。


「ねえ、今のどういう」


「ごちそうさま」


手を合わせて食器を重ねてキッチンのシンクへと持っていく。


俺は何かを言う事はなく、そのままスタスタとリビングを出ていった。


「あれはもしかして」


「何よ?」


「うーん」


リビングからかなるさんが何か憶測の考えを言っていたけど、特に耳を傾ける事はしなかった。