何かを話す事もなく、私は距離を取りながら矢吹くんの後ろから着いていく。



すると矢吹くんは、ふいに口を開けた。



「ねえ」



「はい?」



「仲良く、してもいいよ?」



「えっ」



矢吹くんは少し戸惑った口調で私に伝えた。



「えっと、それって…」



「そのままの意味、君が俺と『仲良くしたい』って言うから、応えてあげてもいいかなって思って。
嫌なら別にいいけど」



「あ、ううん。すごく嬉しい、ありがとう!」



それってつまりは、私に興味を持ってくれたって思っていいんだろうか。



「一応、言っておくけどさ。仲良くはするけど、君に興味を持った訳じゃないからね」



「えっ…あ…そう」



(なんだ・・・)



興味を持ってくれた訳ではないんだ。



「興味を持ってくれたんじゃないのか」と喜んだのもつかの間、矢吹くんに言われた言葉に残念がる。



「でもまあ…。君はおせっかいで不思議で変な子だから、多少は興味持ってあげてもいいかと思ったよ」


「……」


上から目線の言い方をされたけど、私は矢吹くんの言い方よりも「興味持ってくれた」という言葉の方が何より嬉しく感じたんだ。



「本当に?」



「うん」



「ありがとう!」



「…!」



お礼を言いながら矢吹くんの手を掴み笑顔を向けた。



「…君はオーバーだよ」



「えっ?」



「たかがそんな事ぐらいで、そんなに喜ぶ事なの?」



私は嬉しいから喜んでいるのだけど、矢吹くんからしては私の表現は不思議な光景に見えるのだろうか。



「嬉しい時には嬉しいって喜んだりしない?
矢吹くんは光壱さんやお母さんの事で喜んだりしないの?」


「心から喜んだ事はあまりないよ。上辺や嘘の笑いがほとんどだから、本当の意味での喜びはないんだ。でも、そうだね、今回の事やじいちゃんが居てくれた事は嬉しかった」



「………」



「嬉しかった」と言う矢吹くんのその表情はなぜか悲しそうに見えた。



(ああ、そっか)



彼はお父さんの虐待や生活環境の所為で喜びという感情があまりない欠落した人間になってしまっているんだ。



偽りや嘘の笑顔した喜べないんだ。



だから矢吹くんは、基本的にはいつも笑顔なんだ。



どうしたらいいのだろうか?



せっかく彼が私と仲良くしてくれるように思ってくれたのに、欠落だらけで私にはどうしたらいいのか分からない。



(でも)



なんとなくだけど、私はその気持ちを批判的な感情にはなれなかった。



おそらく矢吹くんの気持ちに理解している自分がいるからだと思う。



欠落しているのは私も同じだと言えると思う。



私も普通ではない感情を持っているから。



曖昧で普遍的で自分でも嫌になる、そんな自分が大嫌いで悔しくてどうしようもない事を理解しているから、こじ開けられるのはすごく迷惑に感じる。



だから、矢吹くんの感情に無理やりこじ開けられないんだ。



仲良くしたいという気持ちはあっても、感情まで開かす事は一切できない。