『やあ、君が矢吹くんかい?』


じいちゃんが倒れて数ヶ月の命だと言われ数日が経った頃、学校から帰り病院に行くととじいちゃんの病室にお客さんが来ていた。


『………』


じいちゃんと同じくらいの年齢の人で、その人にはどこか少し見覚えがあった。


『いらっしゃい、矢吹』


『うん……。じいちゃんの知り合い?』


『ああ、友達だよ』


その人はじいちゃんの昔馴染みの友達で、じいちゃんが倒れて目が覚めた時に連絡していたらしい。



そう、この人こそ《瑞仲 灯良〈みずなか とうら〉》さんだった。


それからじいちゃんが亡くなった後、自分の家に招き入れてくれた、というよりはじいちゃんがそうお願いしてくれた方が正しい。


灯良さんは俺の事情をずっとじいちゃんから聞いてくれていたから理解してくれている。


じいちゃんが亡くなった後も手伝ってくれて、俺自身の事も色々やってくれた。


本当はこの町に戻ってこようと思ってた。


何もなくなった俺にこの街にいても意味もなかったから。


だけど、じいちゃんのお葬式の翌日にばあちゃんはどこかに消えてしまった。


そして、現在俺は元々いたこの田舎町で灯良さん家にお世話になっている。


それが、俺の抱えている事情である。


でも、俺自身はそんな事情どうでもいいと思ってる。


ただじいちゃんと母さんを除いては、後は本当にどうでもよかった。


おそらくじいちゃんは母さんの居場所を知っていると思うけど、俺は会いに行きたいとは思っていない。


きっと母さんは俺に会いたいと思ってないのだと思う。


こんなおまけみたいな存在に。