それは、俺が小5の春休みであと数日で新学期が始まる頃だった。


その日、父親からなぜか突然『友達の所に泊まって来い。明日の昼頃まで戻ってくるな』と言われ、とりあえず言う事を聞いて、明日の昼頃まで家に帰らなかった。


翌日の昼頃に家へと帰ると家の中はとても静かだった。


そして、誰一人としていなかった。


不思議に思い家中探しても誰も居なく、部屋にある違和感を感じた。


゛物がなくなってる゛と。


いつもなら母さんが書き置きしてくれているはずなのに、それさえもなかった。


『!?』


その時察した『ああ、俺は捨てられたのか』と。


いつかは絶対に起こると思ってたけど、でもまさか、母さんやじいちゃんまで居なくなるとは思ってもなかった。


それが少しだけ悲しくなった。


初めて自分が悲しく感じた。



誰も居ない静まり返った家の中で、俺はリビングのソファで電気も付ける事もなく、そのまま縮こまって横に倒れこんでいた。


『…………』



゛やっぱり俺は必要のない人間だったのかな゛



別にそんなの初めから理解していた。


『別に1人でも大丈夫…』


暗くなっていく心の感情がどんどん暗闇に埋まっていくように感じた。



《ガチャ》



゛えっ゛



沈んでいた心がひとつの光が差し込むかのように、リビングの部屋の扉がガチャっと開いた。


『どうした? 電気もつけずに』


『じい…ちゃん……』


そこに現れたのはいつもと変わらないじいちゃんの姿だった。


じいちゃんの姿にソファに転がっていた体を起こしすぐさま近寄る。


『じいちゃん…母さんは……』


『…え』



その日、母さんと父親と妹は俺とじいちゃんを残して何も言わず出て行った。


じいちゃんに全てを託して。


母さんの部屋から見つけた封筒には、俺に必要な何かの書類と通帳と手紙が入っていた。


その内容見を見てじいちゃんは、母さんに対しても父親にも妹にも、怒り立っていた。


その時俺は思った。



゛俺は愛される事なく終わったんだな゛と、これでもうあの人に虐待を受ける事なく過ごせると思ったら少し身が楽になった。


ただ、母さんを利用した事には今でも酷く憎んでいる。


それはずっと変わらないでいる。


手紙にはやはり母さんは謝った内容ばかりだった。


あの人はいつも謝ってて、惨めそうに後悔したような感情でいつも泣いてた。


それを見て、俺はいつも可哀想に見えてた。



゛俺を生んだ事で母さんは幸せになれなかったんだ゛



゛俺が居なかったら、もう少し幸せになれたかもしれない゛



゛じいちゃんと離れる事もなかったかもしれない゛



それが俺にとっては悲しくて仕方なかった。