「ねえ、矢吹くん…」


「うん?」


「幻滅した?」


「えっ」


「ここでの私と向こうでの私は全然違うから」


「ああーあー…うーん」


矢吹くんは私の言ったことに、少し言葉を選んでいるのか少し悩む素振りをしていた。



「そうだな…でも血のところ見てるから。
それに、くるなさんに対して歪があるなとは思ってた。まあ、何か抱えているんだろうなって」


「……」


これはどっちの意味なのだろうか。


「まあ…俺も人の事言えないからな。まあ、俺は別に気にならないからな。けどね…心を殺して生きてるのは確かだから」


「………心を?」


殺して生きてるってどういうこと?



「俺だってさ、好きで人に対して興味持たなくなった訳じゃないんだよ。心を持たなくなったのは、それしか方法がなかったからなんだけど。…だから、分からなくもないんだよ、本当はね」


「………」


「ただ、楽な方を選んだだけ、それだけ。
でも、心を殺した生き方をしてるのも事実。だって、言った所で理解されないって分かってるから。だったら、感情を持たないで誰にも興味持たない方がずっと楽なんだよ。…それでも、心はずっと苦しいままなんだよ。
本心を見せないで生きてるから、嘘を付いて生きてるから」


そっか、そうだったんだ。


私に言った全ては自分を保身する為だったんだ。


だから、あんなにも冷たかったんだ。


感情を持っていたら心を壊れてしまうから、傷付いてしまうから、感情や興味を持たない方が傷付いたりしなくなるから、心の感情に鍵を掛けたんだ。


それが、矢吹くんにとって自分を守る方法だったんだ。


「別に幻滅はしてないよ…。
そっか、でも向こうだと君は自分らしさになれるんだね。…俺は唖桐の前でしかなれないから」


「………」


そう言った矢吹くんの目には光がないように見えた。


でも、目に光がない矢吹くんを私はじっと見ていた。


(似てるのかな、なんとなく…)