「ふーくん」


「はあ」


矢吹くんはお姉さんの近寄りにふわりと避け私の方へと来る。


すごく慣れているような避け方だった。


本当にいつもこんなやり取りしてるんだ。



「上行こ」


「おお、そうだな。ほっとこ」


「毎回毎回、嫌がってるの諦めたらいいのに」


「言えてるー」


矢吹くんは呆れながら疲れた様子な反面、雫鈴先輩はお姉さんに対してからかっていた。


「月野さん、上行こう」


「うん」


そう促されて2階に上がる階段へと向う。



「ふーくん!」


と、お姉さんがまだ諦めを付いていなかったのか、後ろから矢吹くんに近寄る。


「はっ?」


「えっ」


「あちゃあー」


お姉さんが矢吹くんにした後景に頭の思考が一瞬止まってしまった。


「……っ」



「なーにしてんだよっ」


先程と同じように矢吹くんはお姉さんを無理やり引き剥がす。


「やっとちゅーできた♡」


「じゃねーよ! 前に言ったよな? 2度とするなって! あんたの脳みそは腐ってんのか?」


そして、私に対して比べようのないぐらいの口の悪さだった。


「……はあ、もう。ほんとに」


矢吹くんは呆れすぎて少し頭を抱えているように感じた。



「………」


(今、キスしてた…)


お姉さんと矢吹くんの光景が妙に脳裏に焼き付く。



「ことはちゃん、上行こう」


「ああ…うん」


けど、矢吹くんは気にしていない表情で2階へ促す。



「あ、あれも、いつもの事なんですか?」


「ああ、そうだな」


「…そうですか」


いつもの事なんだ。


なぜだろう、向こうの帰り際にされたキスと妙なデジャブ感を感じる。


でも全然違うのになぜだろう。


少しだけ胸がズキと感じた。