「えっ」


(この声…)


「そういえば、引っ越したんだってね」


「あ、はい。田舎の方ですけど」


「そういえば言ってたね」


(やっぱりこの声…矢吹くんだ)



やっぱりこの作品矢吹くんが作った作品なんだ。


どうりで見覚えがあったんだ。


そうか。


このお店で売っているんだ。


私はそっと矢吹くんの方に出ていこうとした。



「あ、矢吹…こっちに来てたんだ」


「よう、久しぶり、唖桐」


「お前な、先にこっち来てどうすんだよ。
家で待ってたのに先に店に行くって言うからびっくりするだろ」


「あら唖桐くん、こんにちは」


「あ、どうも、こんにちは」



「あれー誰ー? この子、超かわいい。男の子?」


「……唖桐、友達連れてきたの?」


「途中で会ったんだよ」


「ふーん」


「あれーくるな先輩!奇遇ですね。1人ですか?」


「!?」


(くるなちゃん!)


雫玲先輩の友達にくるなちゃんがいるということは私が出たら、絶対に変な雰囲気になるに決まっている。


それに絶対に嫌な顔をされるに決まっている。


このまま帰った方がいいのかもしれない。


せっかく矢吹くんがいるのに。


それに矢吹くんとはなんとなく気まずいし。


「ううん、妹と来てるんだけど」


「あ、月野さんも来てるんだ」


雫鈴先輩はきっと好意的な表情を向けてくれるだろう。


でも、雫鈴先輩の友達はそうは思わないだろう。


「ことはが好きそうなお店見つけたから連れてきたの」


「えーまじ? くるな先輩ってよくあんな子と一緒に出掛けようと思いますね。私があんなのが妹だったら絶対に無視するのにな」


「俺も絶対嫌だな」


「………」


(やっぱり帰ろうかな)



私がちっとも良くなろうとしないのは、嫌味を言われているのもあるのだろうな。


こんなんだったら断ればよかった。


夢見が悪かったのもきっと良くない事が起きる前兆だったのかもしれない。


(気分が悪くなりそう)


なんで私いつもこうなんだろう。


何も反論できない。


どんどん悪い感情に押し込まれる。


(私、何かしたのかな)


私の心には明るい感情なんてないのかもしれない。


いつもあるのは負の感情なのかもしれない。


その感情からずっと抜け出せないでいるのだろう。