「行くぞ、」そう声をかけて、爺さんには軽く会釈した。

 階段を登ると後ろに続く葉山さんの足音も聞こえてきた。
 同時に「スイッチが、」と呟く声も。

 玄関のドアを見た。
 スイッチってタッチキー式の解錠か何かかと瞬間に思った。

 ないな…
 そんな最新の設備を備えてるとは、到底思えない。
 昔ながらのドアノブに鍵穴があるタイプだ。
 しかも外側から見た感じじゃ、一個しか付いてないだろ?

 これはダメだ。
 女性ならもう少し防犯に特化した部屋に住むべきだ。

 鍵を手にした葉山さんは、俺に背を向けて立つとそれを差し込んだ。
 鍵はやっぱり一つだった。
 ドアを開くと脇によけて、「どうぞ」と俺を先に通した。

 決して広いとは言えない玄関で靴を脱いで上がった。