「で、どこなの?」

 車を発進させるとすぐに聞いた。

「駅の向こう側の商店街を抜けた先です」

 なんだ、わりと近いみたいだ。

「マンション?」

 確か、あっちっ側に茶色い目立つマンションがあった気がする。

「いえ、戸建なんですけど、賃貸で二階を借りてます」

「ふーん、そう」


 車では商店街は抜けられないから、迂回しなきゃならない。
 角を曲がったら、斜め前から陽の光が差し込んだ。


「あの、本当にいいんでしょうか?
私が転がり込んでも…」

 街路樹の並ぶ道に差しかかって、車内は木漏れ日で明暗を繰り返した。


「親父とはどうやって知り合った?」

「職場で。私は営業課で働かせてもらってました」

 過去形。
 和乃さんから家事を教わりつつ、同居して花嫁コースか…

「親父と決めたんでしょ。いいんじゃない、あの人の家だし」

 近づくと案内してもらいながら、やっぱり車だとなんてこともない距離だった。

「そこです。前に横付けして停められますので」

「え、そこなの?」

「はい」

 エンジンを切ると降り立って、改めて建物を眺めた。
 ボロ…いや、昭和のレトロ感と言いますか。