そんな食事を終えて後片付けをしてる間に、着替えをしに部屋へ戻った圭さん。
 仕上げにテーブルを拭いてたら「行くぞ、」って背中から声をかけられた。
 金属のぶつかり合う音もして振り返ったら、その片手に車のキーが見えた。

「一人で大丈夫です」

 できればこのまま静かにフェードアウトしたい。
 自宅は知られない方がいい。

 専務が人事部で調べたら、すぐにバレてしまうことだけど。
 でもそこまでして私を追う理由もないはず。
 今なら、専務の冗談だったで間に合う。

「ここに住むんでしょ?
車なくてどうやって当面の荷物運ぶ気?」

「せ、健吾さんと、一緒に住むことはもう一度よく話し合ってみようか…と…」

 言葉は尻つぼみになった。
 せっかく普通に話せるようになった圭さんが、不機嫌になってくのが分かったから。

「親父と話し合うのは、ご勝手にどうぞ。
で、行くの? 行かないの?
俺、午後から仕事なんだけど」

 長いまつ毛の下の射抜くような眼差し。
 それでいて同時に憂いも醸し出すから、心のどこかがモゾモゾする。
 行かない、とはとても言える雰囲気じゃなかった。

「い、行きます?」
「行きますぅ?」

「行きます、行きましょう!よろしくお願いします!!」

 この洋館で暮らす覚悟を決めた瞬間だった。