バスルームの脱衣所で脱いだストッキングを丸めてバッグに押し込んだ。
代わりにハンカチを取り出して、洗面所で手や顔も洗わせてもらった。
顔の水滴を拭いながら、鏡越しに辺りを眺めた。
背中の奥には、ホテルのようなガラス張りのバスルーム。
脇にはアイアンのストッカーが映って、厚みのある柔らかそうなフェースタオルが重ねてあった。
今立っているこの場所は、洗面所よりパウダールームって呼ばれる方が似つかわしい。
鏡に映る自分に視線を合わせると、化粧っ気はなくて髪も梳かしてない。
まるで遠くまで来てしまったような感覚だった。
もしかすると仕事と住まいを失ったのも、今この屋敷にいることも全部、夢の途中なのかと思った。
淡い期待に指で頬を引っ張ってみた。
「…痛ぁい」
やっぱり夢じゃない。
現実味のない空間に、リアルな自分が立ってた。
