「朝食にしましょうか」
仕切り直すように和乃さんはそんな提案をした。
それは圭さんだけじゃなくて、私にまで。
「いえ、私は今から自宅に帰ろうかと思っていまして…」
キッチンへ向かおうとしていた和乃さんは私の言葉に立ち止まると、パンツのポケットからなぜかスマホを出した。
腕を伸ばして顔からかなり遠ざけてる。
たとたどしい指使いでそれを操作した。
「旦那様が、」
私と圭さんに披露されたのは、ラインのトーク画面。
お相手の専務?のアイコンは…家紋?
「あの人、ライン覚えたてで使いたくて仕方がないんだ」
私と同じく画面をのぞき込んだ圭さんが言った。
専務からの吹き出しの数々は、私への家事の伝授や部屋の案内などの指示だった。
そのトークの最後が、 “まずは朝食を” だった。
「俺にも来てる」
なぜか圭さんまでもが私にスマホを向けた。
やっぱりラインのトーク画面。
相手のアイコンは…家紋…
“葉山さんは一度自宅に戻るかと思うので、荷物を運ぶのを手伝うように”
「だってさ」
すごい…専務。
先手必勝。
私の逃げ道がどんどん奪われていく…
「バスルーム、2階の突き当たり」
スマホをテーブルに置くと、圭さんは私に言った。
バスルーム…お風呂?
「帰るにしても、それで外に出たら襲われたと思われる」
それで、と言った時足元に落とされた視線。
私も自分の足を見下ろしたら、それはそれは無残だった。
手当された傷はともかく、ストッキングがビリビリなのは誰のせいですか…
「脱いだら、食って。それから出かけるから」
私の抗議の睨みはまるで効果なく流された。