「…圭……車…」

 …車…?

 ハッとして目を開けた。
 親父が帰って来たんだ。
 玄関から俺を呼ぶ声が聞こえた。

 あのまま…座ったまま、いつの間にか寝てた。

 「はんっ、」

 いい気なもんだ。
 隣に目を向けると、未だにスヤスヤとした寝顔。
 こんなに無防備で大丈夫なのか?
 拾ったのが俺だから良かったものの…
 世の中には変な奴だってたくさんいるのに。


 そうだ、呼ばれたんだ!
 さっき急いで停めた車が、ガレージの入口を塞いだままだ。
 親父の車が入れられない。
 ポケットからキーを出すと、玄関へ急いだ。

「悪い、悪い」
「何かあったのか?」

 玄関から親父と二人で車に向かうと、心配そうに尋ねてきた。
 何かトラブルでもあったと思ったんだろう。


 仕事を終えて帰宅した父親。
 俺はスーツを着ない仕事を選んだ。
 親父のスーツは仕立ての良さのせい?
 背を抜かした今も、子供の頃も、不思議とくたびれたサラリーマンに見えたことはなかった。

「中に女がいるんだけど」

「紹介します、ってやつか?」

 父親のオヤジギャグ、ってやつか…
 冗談がつまんない。
 彼女を連れてきたんなら、ゲートを開けたまま、こんな半端に停めたりしないだろう。

 車を並べてガレージに停めると、二人でリビングに向かった。
 家の前で倒れたこと、俺は知らない人間だってことは前置きした。

 相変わらずソファで眠り続けてるそいつを、親父はのぞき込んだ。
 それから背もたれに手をついたまま、神妙な顔で呟いた。

「これは、葉山さんだ」
「えっ、」