離れていた時間を取り戻すように長いキスをした後、圭さんは車を再び走らせた。
天草五橋の一番目を渡って海水浴場で車を止めた。
夏が終わって人影はまばら、白い砂浜を手を繋ぎながら歩く。
途中で見つけた綺麗な貝殻を拾って見せたら、圭さんは目を細めて笑った。
水平線に夕陽が沈むのを眺めた後、天草の食堂の暖簾をくぐった。
圭さんはデートって言ったけど、何だか遠くまで旅行に来てる気分。
こんな展開、昨日までは想像もしなかった。
注文を済ませると、食事を待つ間に尋ねてみた。
「編集長と何て内緒話してたんですか?」
気になったのは、会議室での会話。
額を突き合わせて二人、ヒソヒソと。
「あぁ、『愛の告白するため飛んで来たから葉山さんを貸して』って。
『その代わりノーギャラで表紙とインタビュー受けますよ』って話した」
「え! 大丈夫なんですか?」
「俺がギャラもらうと、弥生の給料出なくなるよ」
テーブルの向こう側から、あっけらかんと言い放たれた。
「あの、そっちじゃなくて…愛の…告、…もういいです…」
圭さんは、フフンって笑うと
「ちょっと電話してくる」って、スマホを持って食堂の扉を出て行った。
一人残された私は、明日の出社を思って憂鬱になった…
