コガレル ~恋する遺伝子~

 拒絶されて涙も枯れ果てた。
 遠く離れたこの土地で、きっとここなら心穏やかに暮らしていけると思ってた。


「俺は、始められなかった。
人生、真っさらに更新とはいかないよ。
弥生のいない過去にはもう戻せないし、弥生のいない未来も生きられないって分かった。

好きで好きで、どうしようもないよ…」

 手を引かれて強く抱き締められた。

「ずっと呼吸が苦しい」

 身体を離されると、私の頬は圭さんの両手で包み込まれた。
 うつむくことは許されなくて、視線を絡み取られる。
 
 いつも強引で俺様のくせに、その冷たい手が震えてる。


 気づいたら私の涙が溢れてて、圭さんの指と手を濡らした。


「弥生が許してくれないと、胸が苦しいよ。
こっちに来てからずっと冷たいし…俺を殺す気?」


 言葉の最後に口角を上げた圭さんの唇。
 勝手な人。
 勝手過ぎる…


 本当はどこにいても、何をしてても、あの洋館で圭さんと過ごした日々を忘れられなかった。

 狂おしいくらい誰かを好きと思ったことなんてなかった。

 圭さんと同じくらい…私もずっと苦しかった。


 冷たい唇にキスした。
 圭さんが目を閉じたのは一瞬で、すぐに角度を変えた深いキスを返された。
 私の涙が圭さんの頬も濡らした。