そこは天草の手前にある港。
 明治時代に整備された石積みの沿岸。
 観光地化された公園があって、西欧風の建物がいくつか並んでる。
 駐車場に車を止めたけど、外には出なかった。
 ここに到着するまでに会話はなかった。
 ただその静かな時間が、私を冷静にさせた。
 私が母と住んでいた家は、この近くにあったことを話した。

「あれ、俺の家に少し似てる」

「八雲の小説にも出てくるんです」

 それは海辺に佇む、小泉八雲が実際に宿泊したホテルを再現した建築物だった。
 私が初めて真田家を訪れたあの日。
 今思えば、故郷を懐かしく思っていたのかも知れない。

「弥生のお母さんと俺の親父は、付き合ってたんだって」

 突如話された、私の知らない母の過去。

「専務とお母さんが?」

 圭さんは頷いた。
 まさか。
 でも専務とお屋敷で初めて会話を交わした朝を覚えてる。
 確かに私の名前を知ってた。
 母とその娘の私も知ってた?

 さっき、ごめんって謝りながら全部話すと言った圭さん。
 きっと私の知らない何かを伝えたくて、ここまで訪ねて来たんだ。