ドアを開けて車を降りた。
 振り返らずに、今来た道を戻り始める。
 反対車線に渡ると、運良く来た空車のタクシーを拾えた。
 ドアが開いて乗り込もうとした時、腰に回された腕に動きを封じられた。

「すみません、乗りません。行って下さい」

 圭さんは運転手に頭を下げると、ドアを閉めた。

「やめてよ、もう! 何なの!!」

 私の中で何かが弾けた。
 抱きしめられたから、胸を叩いて、腕を突っ張って抵抗した。
 意味が分からない。
 フった女にどうして構うの?
 放っておいて欲しいのに…

「ごめん、」
「いや、離して!」

 圭さんは腕の中で暴れる私の髪を撫でた。

「ごめん、全部話すから、話を聞いて。俺が悪い、ごめん。ごめんね」

 ごめん、を繰り返しながら髪を撫でられた。
 私が落ち着きを取り戻すまで、それは続けられた。

「車に…乗って?」

 圭さんは私から身体を離すと、壊れ物でも扱うように私の手を握った。
 よく見れば車はUターンして、こちらの車線に止まってる。

「俺が拾おうと思ってたのに、タクシーに先越されて焦った」

 助手席のドアが開けられた。
 逃げてもまた追われるのだろう。
 大人しく座るとドアは閉じた。
 車はまたUターンして、ナビの指示する西港を目指した。