「圭さん、手を…」

 階段でも、ビルを出てからも手を離してもらえなかった。

「あぁ、そっか、ごめん」

 圭さんはそう答えたのに、やっぱり手を離してくれなかった。
 半歩前を歩いて、振り返らない。

「どこに?」
「コインパーキング。レンタカー借りたから」

 機械で精算する時になって、手首はようやく解放された。
 わナンバーの車に乗り込むと、
「子供の頃、住んでたのは?」そう聞かれた。

「三角(みすみ)西港辺り…」

 ナビにそこを入力すると車は走り出した。

 10分…
 10分くらいは何も話さなかった。
 隣で真っ直ぐ前だけを見て運転する圭さん。
 耐え切れなくなって、沈黙を破ったのは私の方。


「圭さん、」

「…うん、」

 圭さんを忘れようと思っても、テレビをつければそこにいるし、夢ちゃんから始終話は聞かされるし、挙句にはこうやって私の前に姿を見せる。
 忘れる暇も与えてもらえない。
 いつだって胸がチクチクと痛んだ。


「やっぱり降ろして下さい」