「冬馬、明日ここで表紙撮りするから、モデルは真田さんで。滅多にないチャンスだろ」

「はぁ?」

 編集長は腕を組んで冬馬君に指示した後、私に視線を移した。

「葉山さんは、見開きインタビューね。準備よろしく。
今日はもう上がっていいから、真田さんを案内してあげて。私からは以上」

 圭さんが“くまたん”の表紙に?
 嘘みたい、そんなの非現実的過ぎる。

 それに、二人っきりなんて無理…
 せめて、夢ちゃんについてきてもらおう。
 振り向いて、冬馬君のさらに後ろを探した。

 見つけた彼女はなぜか大人しく、自分のデスクに着席してた。
 近づくと小声で話しかけた。

「夢ちゃん、一緒に真田さんを案内しない?」

 夢ちゃんはプルプルと首を横に震わせた。

「無理、無理、無理、無理です!
心臓止まっちゃいます。まぶしすぎて直視できませんから…」

 はあぁぁ…

 心の中で盛大にため息をついた時、
「準備できました?」会議室を出てきた圭さんに背後から声をかけられた。

「いいえ、まだ…」

 仕方なく自分のデスクに戻って、ノロノロと帰り支度を始めた。
 そんな僅かな時間を稼いだところで、事態は好転しない。
 痺れを切らした圭さんが私の手首をつかんだ。

「 それでは皆さん、明日よろしくお願いします」

 勝手に切り上げて挨拶する圭さんに、編集長が手を挙げて応えた。

「お先に…失礼します…」

 私は手を引かれたまま、編集部を後にすることに。
 さりげなく圭さんの指を解こうとしたけど、握る力が強くて離れなかった。
 
 皆の見守る視線が痛い。
 ドアの閉まる直前に見えたのは、胸の辺りで小さく手を振ってる夢ちゃんだった。