「なんで、こんなとこに?」
この発言も冬馬君。
でもなぜかそれを私に尋ねた。
ブンブンと首を横に振ったのが答え。
私の方が聞きたい…
「随分にぎやかなんですね」
敬語でそう言った圭さん。
不機嫌スイッチ、入った…
目を見ることは、とても無理。
それでも視線が、容赦なく私を突き刺すのを感じた。
肌に残されていく棘を抜き払って、今すぐここから消えたい。
「真田さんは周辺を案内して欲しいそうだよ」
編集長もなぜか私に声をかける。
もう訳が分からない。
あんなに恥ずかしい別れ方をしたのに、これ以上どんな顔を向けたらいいの?
どうして圭さんは、私にひどい仕打ちばかりするんだろう…
私も編集長を見て答えた。
「では夢ちゃんが良いと思います。私は何年もの間、熊本を離れていたので。まだ仕事も残ってい…」
「就業時間が終わるまで待ちますよ。葉山さんに連絡事項もありま…」
「編集長、今日は仕事が終わった後、約束があるんです、ね、冬馬君?」
圭さんと同じように、言葉にかぶせ気味で断りを入れた。
そして振り返ると冬馬君に目力で訴えた。
さっき海岸で有耶無耶にした食事の話を有効にしてもらうために。
「ん、あぁ、夕飯奢る約束ね」
良かった…
話を合わせてくれた冬馬君に感謝だった。
油断して圭さんへ視線を戻して、眉間にしわが刻まれる瞬間を見てしまったけど。
「編集長、」
圭さんは編集長を呼ぶと、その耳元に話をした。
小声だから内容は全く分からない。
会話の終わり、編集長が胸に手の平を当てて、うんうんと頷いた。
その後、二人の身体は元の位置まで離れた。
