「弥生さんのお父さんは?」

「分かりません。妹は最後まで言いませんでした。
不倫だったのか、結婚できない人だったのか…
弥生は認知もしてもらっていませんでした」

 大叔父が二人を別れさせなければ、弥生の母親の人生は変わっていたのかも…

 その時は弥生も俺も、この世にはいないけど。

「金を返さずに使ってしまったら良かったのに」

 前に弥生はピアノを買ってもらえなかったって。
 大学も奨学金で行ったと聞いた。
 いくら包まれていたのかは知らない。
 そんな金使ってしまえば、ほんの少しでも楽ができただろうに。


「妹のプライドだったと思うんです…
母親が手を付けなかったお金を、弥生は使いませんよ。そういう子です」

「…そう、ですね」

「あの子を放ったらかしで、酷い伯母だと思われたでしょう」

「いいえ」

 自分のした仕打ちに悔いてる今、他の誰かを責める気持ちはまるでなかった。


「要一が弥生にどうやら夢中になってしまったみたいで…

弥生はそれに応える気はなかったようです。
兄ができたようで嬉しいと初めは言ってましたから。
要一を諭しもしたんですが、主人の連れ子でもあるし私も甘かったんでしょう」

 そう考えると弥生にとってはキツい環境だったのかも知れない。
 安易に白岩とのことを責め立てたことが悔やまれる。
 あの日ピアノの部屋で、マンションのキッチンで、俺にすがった弥生はどんな気持ちでいたんだろう…

「離れて住むのは弥生にとって良いと判断しました。
それから私達夫婦には全く頼ってもらえなくなりました。
実際、頼りなかったんでしょう」