コガレル ~恋する遺伝子~



 身体が冷えて目覚めると、日の暮れた暗い部屋の中にいた。
 未だにぼんやりとした頭で一階に降りると、親父が帰ってた。


「チーズ、頂いてる」

 ダイニングのテーブルに土産のチーズと並ぶワインボトル、それにグラス。
 そんなのを横目に、親父の斜向かいの席に俺も腰掛けた。

 あのまま眠り込まなければ、親父が帰ってくる前に俺は出て行っただろう。

 弥生はもういなくなった。
 今が話をするタイミングかも知れない。


「イタリアはどうだった?」

「賑やかだったよ。時間がなくてあまり観光はできなかったけど」

「そうか。勿体なかったな」


 覚悟を決めたのに、なかなか切り出せない。

 親父は自分でグラスにワインを注いだ。
 グラスが空になったのは知ってたけど、俺は注いでやることはしなかった。
 聞くんだ。

「葉山さんのお母さんを知ってるよね?」

「ああ、知ってたよ」

 親父の表情は変わらない。
 俺が弥生の母親の話を振っても動じなかった。

「弥生君から聞いたよ、お兄さんが来て、お前と話したって」
「手切れ金の話は本当?」




「本当だ」