コガレル ~恋する遺伝子~



 酔いも手伝って、モヤモヤとする頭を抱えた。
 和乃さんの話の中の親父は、俺の記憶の中の父親像とかけ離れてた。

「私は見かねて、旦那様を叱り飛ばしました。
『あんたとの子だから奥様は産んだ。
奥様が命と引き換えに産んだ子を殺すな』って」

 そう言われた親父は和乃さんの足元に、泣き崩れたそうだ。
 母が愛しすぎて哀しみに耐えられなかったって…

「私が胸ぐらを掴んだのは、後にも先にも旦那様だけです」

「そう…ですか…」

 過去の自分が、和乃さんを本気で怒らせなかったことを褒めてやりたかった。

「私は、クビでしょうか?」

 和乃さんには敵わない。
 初めから見透かされてたんだろう。
 自分では会いに行けないから、和乃さんをここに呼んだ。

 和乃さんの存在が、弥生と繋がっていられる唯一の手段だった。


「ロボットは風呂とトイレを掃除してくれないんです。
和乃さんにお願いします」

「許して頂いて…ありがとうございます」

 和乃さんは静かに微笑むと、エプロンをつけながら向こうへ行った。