弥生に頼る?
意味が分かんない。
家族に頼れって?
その家族に悩んでるのに…
「和乃さん、親父は母を裏切ったことがあると思いますか?」
漠然として、何を言ってるか分からないだろう。
酔っ払いの戯言と思ってくれたらいい。
それなのに、思いもかけない返事が返ってきた。
「奥様にはお会いしたことがありません。
当時旦那様は奥様を亡くされて、打ちひしがれて憔悴しきっていました」
和乃さんがうちに来た頃か。
親父が憔悴なんて気づきもしなかった。
母が死んでも毅然として、葬儀が済んだら変わりなく仕事に精を出してた、子供時分の記憶の中の父親。
「圭さんもですけど、赤ん坊の准さんを特に、育児放棄気味でした」
幼かったし、母を亡くした悲しみで当時の親父のことなんて記憶から消え失せてる。
「准さんが泣いても、腹を空かせても、おむつが汚れても、眺めてるだけで…
圭さんがあやして、分からないなりにおむつを変えてるのを何度も見ましたよ」
思い返せば、確かにそんなことがあった。
泣く准を黙らせようとして、俺も必死だったんだ。
