コガレル ~恋する遺伝子~




 乾燥が終わるのを待たずに取り出して、服を着てしまった弥生。
 タクシーを呼ぶからと言ったのに、逆らう手に傘だけは握らせた。

 弥生は出て行った。

 それから俺は飲んだ。
 カウンターの温くなったビールの後に数本飲んで、リビングのソファで寝た。

 目が覚めるとまた冷蔵庫からビールを出して飲んだ。
 どうせ、今日はオフだ。

 またソファでうとうとしてた。
 玄関の鍵の回る音と、ドアを開閉する音で目が覚めた。

「あら、まぁ。下でインターフォン鳴らしましたのに」

 ソファで寝転がる俺を見つけて、和乃さんが呟いた。
 そう言われれば、確かに鳴った。
 出るのが面倒で居留守を決め込むつもりだった。
 そのまま、エレベーターが到着するまでの、ほんの束の間にまた寝たらしい。

 そうか、今日は掃除の日か。

 俺はのっそりと起きて、頭を抱えた。
 飲みすぎて、腹も胸も一杯だった。


「和乃さん、」

 今は部屋のどこかに行ってしまった和乃さんを呼んだ。

「はいはい、」

 和乃さんはエプロンをつけて、俺の元へ戻って来た。

「あいつにここを教えたでしょ?」
「来たんですね、弥生さん」

 何を嬉しそうに。
 えぇ、来ましたよ、昨日ね。

「追い返しました。これじゃ、気の毒でしょ?」

 まるで小姑のように、遠回しに和乃さんを非難する。

「気の毒ですね…圭さんが」

 和乃さんは、目の前の何本もの潰れた空き缶を見やって答えた。
 それからエプロンを外すと、俺の前に膝をついた。

「小さい頃から、何でも一人で抱え込んで…
家族でも弥生さんでも頼ったら良いんですよ」