「私、処女です…」
電気ケトルが蒸気を吹き出して、カチっとスイッチがオフに切り替わる音が響いた。
「それでもダメ…ですか?
…私のこと、気持ち悪いですか?」
弥生の両の手の平が、迷うように俺の背中にそっと触れた。
ダメじゃない。
気持ち悪くもない。
もっと強く触れて欲しいくらい。
俺の腕と胸が覚えてる感触は、やっぱり弥生だった。
ずっとこれだけが欲しかった。
このまま、髪や首筋に頬を埋めてしまいたい衝動。
でも、できない。
「成実が帰ってくるから、服が乾いたら帰れ」
弥生から手を離すと、弥生の手も俺の背中から剥がした。
脇をすり抜けて、キッチンを出る。
バスルームに入ると洗濯機は動いてた。
バスタオルとフェースタオルを棚から出してキッチンに戻った。
弥生はさっきの場所に座り込んで、向こうを向いてる。
白く浮き立つ、腰のくびれから尻のライン。
そこから目をそらして、バスタオルを肩からかけた。
もう一枚のタオルで頭をガシガシと拭いてやると、反抗するように弥生は俺の手からタオルを奪った。
自分で拭くという意思表示。
「近いうちに名古屋に帰ります。
圭さん、たまにあの洋館に帰ってあげて下さい。
二人じゃ寂し過ぎます」
向こうを向いたままそう言って、他に会話はなかった。
