部屋に入ってから少しした時、インターフォンが鳴った。
…ドSは、まだ何か言い足りないのか。
通話ボタンを押して話し出してから、モニターに映るのが成実じゃないことに気付いた。
「圭さん、弥生です」
モニター越しとはいえ、道路の向かいよりも断然近くで見ることができた弥生の顔。
その思い詰めたような表情は、涌井も一目置いたように、一般人とは一線を画して綺麗に見えた。
そこまでに思えるのは、俺の欲目なのか?
もうすぐ雨が降る、早く帰った方が良い。
「用はない」
たったそれだけを言って、通話ボタンを切った。
それから非道な仕打ちを洗い流すように、シャワーを浴びた。
風呂場から出ると、冷蔵庫に直行して冷えたビールを一缶取り出した。
プルタブを開けた時だった。
インターフォンがまた鳴った。
弥生かも知れない、まだ帰ってないのか?
居留守を使うか…いや一言だけ、早く帰るように言おう。
一言だけだ。
そう決めて、通話ボタンを押した。
それなのに、モニターに映し出されたのは弥生じゃなかった。
