コガレル ~恋する遺伝子~




「成実、ごめん」

 肩を掴んで押すと、身体を離した。
 俯く顔をのぞき込んで、言葉をかける。

「もしやりづらかったら、俺が事務所辞めるよ」

 成実と縁を切っても、事務所を敵に回しても、仕事を干されても構わない。
 もうそれでもいいと思えた。

 成実は顔を上げた。
 キッと俺を睨む目は、高級ブランドの広告を思わせた。
 成実は俺じゃなくたって大丈夫。
 いくらでもイイ男に巡り会える。


「ハァ? 馬鹿なの?
何、勝手に落ちぶれてんの?
腑抜け!もういい!! たった今、愛想尽きた」

 キレて喚いて成実は、俺に肩パンしてきた。
 グーで、強く。

 そうだった、こいつボクシングジムに通ってんだ…

「仕事辞めたら、殺す」

「やっぱり、ドSじゃん」

 肩をさする俺を残して、成実はエレベーターで降りて行った。