親父が台湾から帰国した日、夕食の席で出て行くと告げた。

 弥生は分かりやすく慌てた後、怒ったような、悲しいような表情をした。
 そんな顔をさせてしまうことが辛い。

 それでも気持ちを押し殺して、客観的に目の前に並ぶ二人を窺い見た。
 この前までは夫婦になると信じて疑わなかった。
 自分の方が早く出会ってれば、なんて悔しい思いをさせられた。
 それなのに親子と言われればもう、二人は親子にしか見えない。

 親父が台湾から戻る前に、自分なりに考えを整理した。
 俺ら兄弟と万が一でも恋愛させないように、親父は弥生が婚約者と嘘をついた。

 俺らに近付けたくないなら、ここに住まわせなきゃいいのに。
 それでも弥生をそばに置いたのは、娘だから?
 捨てた娘が、家も仕事も無くした。
 同情からか愛情なのか、ここに住まわせた。

 そもそも、弥生が親父の職場に就いたのも、その仕事を取り上げたのも、何か裏で手引きがあったのかも知れない。