コガレル ~恋する遺伝子~




「圭さんは最初から、弥生さんにデレデレでしたからね」

「そんなことは、ありません」

 否定する私に和乃さんは、穏やかに微笑んだ。

「圭さんは、あなたのことが好きですよ」
「そんなことありません!
無理って、私は…拒否…されました…から」

 途中から、涙がボロボロとこぼれてしまった。
 あの日、ピアノの部屋で涙は出尽くしたと思ってたのに、まだ残ってたみたい。

「ごめんなさい、」

 人の目がある。
 和乃さんが恥ずかしいだろうと思って、精算するために伝票に手を伸ばした。

 その手を和乃さんが握り締めた。
 反対の手が私の背中をさする。

 伝わる優しさに何とか声だけは押し殺して、そのまましばらく泣き続けてしまった。