コガレル ~恋する遺伝子~



 東京を離れる前に片付けないといけないことがいくつかあった。

 その中の一つが、和乃さんに挨拶すること。
 沢山のことを教わったのに、投げ出して無駄にすることを謝りたい。

 数日前にラインしたら、今日時間を作ってくれた。

 返信されたトークを見た時、少し笑ってしまった。
 初対面の日に、たどたどしくスマホを操作してた和乃さんの姿を思い出したから。

 待ち合わせた、和乃さんの自宅近くのカフェ。
 私がお店に着いた時には、彼女はもうすでに席にいた。

「ご無沙汰してます、お元気でしたか?」

 和乃さんが辞めてから三週間ちょっと。
 でももっと長く会ってないような気がした。

「元気ですよ、旅したり、昼寝したり、もう色々と」

 そう言って和乃さんは笑った。

 そこは窓際の席だった。
 私は和乃さんの向かいじゃなくて、隣の席に腰掛けた。
 窓の外を行き過ぎる人を眺めながら話すことができる。

 旅行の土産話なんかを聞きながら、その間に私の頼んだアイスカフェオレが届いた。
 店員さんが向こうに行った時に切り出した。

「あの、実は私、」

 あの家を出て行くと言うことは、あの件も白状しないとならない。

「健吾さん、と言いますか、専務と…婚約というのは嘘をついてまして…」