「あのね、准君、」

「うん?」

 圭さんが居なくなっても、食卓の席は変わらなかった。
 私と准君は斜め向かいの位置に座ってる。

 准君は若いのに、いつも姿勢よく食事する。
 普段はあまり似てると感じないのに、食事姿は圭さんによく似てる。

「私はお父さんを知らないの。認知もしてもらえなかったから」

 准君は何も言わないでカボチャの煮物をつついてたけど、話に耳を傾けてくれてるのは分かった。

「准君のお母さんは、准君のいない選択肢を選ばなかったでしょう?
きっと二日間、生まれてきてくれた准君をたくさん抱っこしたんじゃないかな。」
「弥生ちゃん、それはズルイ」

 准君は食事を終えて、箸を置いた。

「それを言われたら、何も言い返せないよ。反則」

 准君はムクレた振りをしながらも、次の瞬間には微笑んでくれた。
 リビングを出る時に言われた。


「兄貴は馬鹿だね」


 すぐに階段を上がって行ったから、その意味は聞き返せなかった。