***


 圭さんがこの家に帰って来なくなって、一週間経った。

 圭さんが居なくなって変わったこと。
 一人分の食事の支度が減って、一人分の洗濯物が減った。

 それから専務に、新しい家政婦さんを探してもらうようにお願いした。
 今月一杯でここを出て、名古屋に帰ることを告げた。

「そうか。寂しくなるよ」

 そう言われただけで、余計なことは聞かれなかった。
 准君にも二人きりの夕食の席で、その話をした。

「だから、准君のお父さんとは結婚しない」

 准君は予想通り、驚かなかった。

「分かってたし」

「なんか…ごめんなさい」

 准君からもありがたいことに余計なことは聞かれなかった。

 ふと、前に圭さんから聞いた話を思い出した。
 小さい頃、まだ准くんがお母さんのお腹の中にいた頃。
 圭さんはそのお腹に、耳を当てさせてもらったそうだ。

「俺の耳を狙って蹴られた」

 驚いてお母さんの顔を見上げた遠い記憶があるって。
 聞いた時、「偶然でしょう?」って笑いながら、幸せそうな光景が浮かんだのを思い出した。

 その話を准君にしたら、初耳だって。