圭さんが突然、明日家を出て行くと言った。

 それは専務が台湾から帰った日の夜のこと。
 珍しく夕食の席に全員が揃った夜だった。
 なんだか私は嬉しくて、少し浮かれてたのかも知れない。
 衝撃的な圭さんの宣言に、冷水を浴びせられた気分だった。


「もう決めたのか?」

 専務はそう尋ねて、止めようとはしなかった。

「あぁ、家電は揃えたし、後は服を少し持ってくだけ」

 なんで…?
 圭さんは淡々と答えて食事してる。

「どこに住むの?」

 准君も止める気はなさそう。

「内緒」
「家族に言えないのかよ」

 なんで笑っていられるの…

「和乃さんが居なくなって、圭さんまで居なくなったら、このお屋敷が寂しくなります」

 嘘。
 私が寂しい。
 
「きっとすぐに慣れるよ」

 圭さんは私と目を合わせずにそう言った。

 もう、食事は喉を通りそうにない。
 それでも食べなければ、専務と准君に変に思われる。
 涙と一緒に無理やり体内に流し込んだ。