コガレル ~恋する遺伝子~




 兄と言われても、苗字が違う。
 弥生の両親は亡くなったと親父から聞いてる。
 親戚に引き取られたとも聞いてるし、複雑な家庭環境だったのは想像できる。

 例え本当に兄妹でも、弥生本人が連絡を絶ってるなら、それなりの理由があるんだろう。
 ここで今、引き逢わせるのは躊躇われた。


「そこに写ってるのは、冴島 成実です」

 俺の言葉に白岩は首を横に振った。

「このバッグは弥生の就職祝いに母が贈った物です。それに、」

 週刊誌のページの中のおぶさった弥生を指差して言った。

「俺には分かります。これは弥生です」


 この男に弥生を会わせたくなかった。
 それは嫉妬心からじゃない。
 嫌悪という言葉に当てはまる感情だった。

 何も答えない俺に、白岩は続けて言った。
 その口調も表情も一貫して変化はない。
 機械のような男だった。

「弥生に、今は会わなくても構いません。
真田さんに話があります」

 なんで俺に?

「すみません、仕事がありますので」

 離れようとしても白岩はたじろぐことなく、何故かまた名刺入れを開いた。
 今度は一番底から一枚を取り出した。
 気になって手にするまで、俺が立ち去れないのを見透かされてる。
 ただ焦らされることなく渡されたから、さっきの白岩の名刺の上に重ねて読んだ。