コガレル ~恋する遺伝子~



 この男はヤバイ。
 とっさに頭の中に警鐘が鳴った。
 身体に危害を加えられるような危険を感じた訳じゃない。
 もっと精神的にダメージを与えられるような、何故かそんな危険を感じた。

「どちら様ですか?」

 この場を何もなかったようにやり過ごしたいのに、男は動こうとしなかった。
 バッグからまた新たに出したのは名刺ケース。
 中から一枚引き抜いた。

 俺に差し出されたその一枚。
 受け取ると視線を落として見た。

『名古屋市○区役所 総務課

  白岩 要一 』

「すみません、有給を使ったのでこんな格好ですが、白岩と言います」

 名古屋市の職員がなんでここに?
 俺は顔を上げて、白岩を見た。

「弥生と連絡がつかなくて、仕事も辞めたようですし、アパートにも戻ってないようで」

 弥生の…

「弥生の兄です」