コガレル ~恋する遺伝子~



「すまない、杉崎君、行こう」

 すかさず立ち上がった杉崎は、親父のキャリーバッグをさりげなく取り上げた。

「車は?」
「敷地の中に入れさせて頂きました。コレ積み込みます。
今日は長谷川が空港まで、送らせて頂きます」

 バタバタと慌ただしくなった玄関に、弥生は見送りに行った。
 親父達が出て行った気配の後、戻って来たから目の前に座らせた。

「あの人に、なんでここにいるのか聞かれなかった?」

「聞かれる前に専務が、『親戚でうちに居候してる』って」

「ふーん?」

 弥生は何故か、しょげた顔をしてる。

「杉崎部長に、縁故入社だったと思われたかも知れません」

 それで落ち込む理由が分からない。
 リストラにあったって聞いてる。
 爺さんが作った会社だし、今は父が重役だから何とも複雑な話だけど。

「辞めた会社だし、どう思われてもいいんじゃない?」

「…そう…ですよね。気にするだけ無駄ですね」

 無理やり納得したみたいだ。

「仕事好きだった?」

「好きでしたよ、やりがいがあったし」

「杉崎さんが好きだった?」

 酔って杉崎のために、親父に頭を下げたのを覚えてる。
 弥生は首を横に振った。

「一度も好きと思ったことはないです」

キッパリと答えた。


「杉崎と二人で会うの禁止」

 わりと本気なのに、弥生は呆れたように笑った。