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次の日の朝、一階へ降りたら俺の寝ぼけた頭脳が一気に覚醒した。
来客があって、その男はリビングのソファに腰掛けてた。
スーツの後ろ姿が、俺の気配にゆっくりと振り返った。
「お早うございます、ああ、先日はどうも」
その時弥生がコーヒーを運んできて、ローテーブルに置いた。
「杉崎課長、圭さんと知り合いでしたか?
課長、ブラックでしたよね?」
杉崎が咳払いをすると、弥生がハッとした表情をした。
「ごめんなさい、杉崎部長ですね。失礼しました」
杉崎は気にしなくていい、って顔で弥生に微笑むとコーヒーのカップに手を伸ばした。
俺は食卓のテーブルに着くと、杉崎を窺い見た。
髪はベトついた様子なくセットされてる。
寸分の曲がりもないネクタイに皺のないスーツ、その袖からはいい値段の腕時計が見えた。
俺より年上だろうが、朝から爽やかでいかにも仕事ができそうな男だ。
「帰国したらゆっくり話ができないか?」
俺がいるのを分かっていてのセリフだ。
なに曖昧に微笑んでんだ、弥生。
キッパリ断れ。
杉崎は帰国と言った。
親父も確か今日から台湾に出張って言ってたな。
キッチンに戻ろうとする弥生を呼び止めた。
「親父と?」
杉崎本人には見えないように指を差して、小声で親父と一緒に出かけるのか聞いた。
弥生はうなずいて、
「専務は今、急な電話に対応中なので待ってもらってます」やっぱり小声でそう答えた。
その時、親父が降りてきた。
