コガレル ~恋する遺伝子~



***


 次の日の朝、一階へ降りたら俺の寝ぼけた頭脳が一気に覚醒した。

 来客があって、その男はリビングのソファに腰掛けてた。
 スーツの後ろ姿が、俺の気配にゆっくりと振り返った。


「お早うございます、ああ、先日はどうも」

 その時弥生がコーヒーを運んできて、ローテーブルに置いた。

「杉崎課長、圭さんと知り合いでしたか?
課長、ブラックでしたよね?」

 杉崎が咳払いをすると、弥生がハッとした表情をした。

「ごめんなさい、杉崎部長ですね。失礼しました」

 杉崎は気にしなくていい、って顔で弥生に微笑むとコーヒーのカップに手を伸ばした。

 俺は食卓のテーブルに着くと、杉崎を窺い見た。
 髪はベトついた様子なくセットされてる。
 寸分の曲がりもないネクタイに皺のないスーツ、その袖からはいい値段の腕時計が見えた。
 俺より年上だろうが、朝から爽やかでいかにも仕事ができそうな男だ。

「帰国したらゆっくり話ができないか?」

 俺がいるのを分かっていてのセリフだ。
 なに曖昧に微笑んでんだ、弥生。
 キッパリ断れ。

 杉崎は帰国と言った。
 親父も確か今日から台湾に出張って言ってたな。
 キッチンに戻ろうとする弥生を呼び止めた。

「親父と?」

 杉崎本人には見えないように指を差して、小声で親父と一緒に出かけるのか聞いた。
 弥生はうなずいて、
「専務は今、急な電話に対応中なので待ってもらってます」やっぱり小声でそう答えた。

 その時、親父が降りてきた。