最終的には和乃さんは、親父とソファでしんみりと話をしてた。
タイミングを見計らって弥生の買ってきた花束を准に渡されて、会はお開きになった。
俺は和乃さんを送って、そのまま仕事に行くことにした。
弥生は酔いながら、頭を下げる和乃さんに最後までニコニコと笑顔を振りまいて見送った。
和乃さんと車に乗り込んだら、さて、家を知らないことに気づいた。
「家、どこでしたっけ?」
バツ悪く聞いた。
この家は坂道の上にあって、通うのも買い物も大変だったろう。
広い屋敷の掃除も、兄弟の面倒も骨が折れたに違いない。
…もう少し優しくしてやれば良かった。
典型的な後悔先に立たずだ。
弥生には今からでも間に合う、少し優しくしてやろう、そう思った。
和乃さんの自宅は車で二十分ほど離れた公団だった。
並ぶ建物の一角に車を止めた。
「幸せでした。真田家に仕えて幸せだったんですよ、私。
ありがとうございました」
車を降り際にそう言われて、胸の支えが少し取れた。
車が走り出して角を曲がるまで、ミラー越しの和乃さんは下げた頭を上げなかった。
