コガレル ~恋する遺伝子~


 ひとまず身体を離した。
 それで。
 何、准がどうしたって?


「母親を…その、殺したって…」

 そんなことまだ言ってんのか。

 元々病弱な人だったんだ。
 誰も准のせいだなんて思いもしないし、だから何を言うこともない。

 ただ、無神経な大叔父が、
「准を産まなければ、母親は死ぬことはなかった」そう言ったのを子供の時分、准は聞いてしまった。
 親父の無言で睨みつけた抗議と准の青ざめる表情の狭間で、俺は動けなかったのを覚えてる。
 何もしてやれなかった。
 それから准が荒れる日も多くあった。

 弟にどこか甘くなってしまうのは、そんな引け目を感じてるせいかも知れない。
 はた目には分からなくても准は准で、俺や親父にどこか一線を引いてる気がする。
 小さい頃の准のそれは、特に不憫で仕方なかった。

 そんな准も分別がつくようになった今、母親の話をするのは相手の気を引きたいからだ。
 どうでもいい奴にはその話を振ったりしない。

 弥生が俺の手を握った。
 細い指のその手を握り返す。
 こればっかりは譲ってやることはできない。


「准の部屋で二人っきりになるの禁止」

 笑える。
 大概俺も余裕がない。
 もう何もかも弥生の全てを俺のものにしたい。
 誰にも邪魔されない…安心が欲しいよ。