「例の映画はベネチアに招待された」

「え?」

「来月、イタリアに行きなさい。頑張ったわね」


 去年撮影された映画。
 病気で倒れた母親の終わりの見えない介護をする俺が、仕事や結婚に悩み、時に壊れながらもそれでも生活は続く、という内容。

 難しい役で苦労した。
 監督や脇を固めてくれた俳優陣に支えられた映画。
 それがベネチア映画祭でノミネートされたってことだ。
 賞云々は置いといても、監督の作品が世界に知られるなら、それは素直に嬉しいことだった。


「ヌードより、そっちを先に教えてよ」

「私、一人っ子だから、美味しいものは最後まで残しておくタイプなのよ」

「その情報、いらない」


 女史の機嫌がいいうちに、俺は事務所を退散することにした。