一時をしのいだところで、それでも聞かないことには先に進まない。
「親父は…?」
我ながら情けない、聞く声は掠れた。
「ごめんなさい、専務と結婚はしません。
…ずっと嘘をついてました」
「本当に?」
頷きに舞い上がった。
さんざん俺を悩ませた親父との婚約は嘘だった。
嬉しさが勝って、騙されてたことなんて記憶の片隅に追いやられた。
「成実さん…は?」
浮かれる俺を沈めるように、今度は成実の名前が二人の間に距離を作った。
成実には少しも恋愛感情を持ってない。
これは本当だ。
打算的で気の強い成実だけど、それは生き残るための手段でもあると思う。
あいつがそれなりに陰で努力してるのを知ってる。
ああ見えて、仕事には絶対手を抜かないし、スタイルを維持する努力も欠かさない。
嫌いになる要素がないのが成実で、どういう訳か愛しいとは思えないのが成実だった。
彼女とは同じ事務所だし、今のドラマが終わったとしても、これからもどこかで接点があるだろう。
できるなら要らない波風は立てたくない。
だからって今目の前にいるこの人が手に入らないなら、そんな偽善は意味がない。
