そんなお屋敷で、准君の部屋のドアをノックした。
時刻は間もなく22時になるところだった。
返事を聞いてからドアを開けると、准君はベッドの上で枕を背にして座ってた。
スマホで何かを操作してる。
「お邪魔します」
「どうぞ」
准君はスマホの画面から目を離さないで答えた。
“どうぞ” と躊躇なく招き入れてくれたのは、私の訪問は予告済みだったから。
部屋に入るとドアを閉めた。
准君の部屋を訪ねた理由は、数時間前の夕食の席で交わした会話に遡る。
専務も圭さんも遅くなるようで、今夜は准君と二人きりの食卓だった。
「准君は圭さんのドラマとか見ないの?」
家族が日常的にテレビに映る感覚が、私には分からない。
『准君。圭さんて、芸能人なんだって』
ついにその仕事を知った翌朝、そう言ったら
『いやいや、知ってたし』って呆れらてしまった。
私がいつまでも気づけなかったように、この屋敷の中では圭さんの出るテレビも雑誌も目にすることがなかった。
