コガレル ~恋する遺伝子~


 いつまでも唇で私に触れる圭さんの隙を見て、瞳を捕らえた。

「圭さん、私ここを出て行きます」
「ハァ? 何で!」

 強い口調とは裏腹に、長いまつ毛が儚げに揺れた。

「ここに置いてもらうには条件があったんです、専務の婚約者のフリをするって…
でも今、破っちゃいました。」

「何でそんな条件…」

「専務はここの兄弟に牽制? って言ってました。
…嘘か本当かは分かりませんけど」

「随分信用ないな。
でもまあ、親父の不安は的中だけど」

 私は苦笑いするしかなかった。

「二人でここを出て行くのもいいけど?」

 真剣な眼差しのその提案は、私が家族を壊してしまうようで嫌だった。
 だから首を横に振った。

「なら、秘密にしよう」

「秘密?」

「親父の条件反故にして、弥生が俺に惚れてしまったことは秘密」

 間違ってないけど、なんだか釈然としない。
 想いは通じ合っても、圭さんは変わらずに圭さんだった。

「弥生、」

 圭さんが私の名前を呼んで、また抱きしめた。

「はい」

 それなのに耳元で囁かれたのは、甘い言葉じゃなかった。



「俺の出てるテレビ見るの禁止」